- 綿密な地質調査と最新の年代情報をふまえて千葉県中央部の地質図を作成
- チバニアン期の地層など後期新生代の年代の“ものさし”となる模式的な地層の情報を集約
- インフラ整備や天然ガス田の資源開発促進はもとより、地学教育や観光産業の基礎資料としての活用に期待

(A)大多喜地域の位置図(B)大多喜図幅内の地質概略図
色付きの部分は丘陵で、大多喜地域では安房層群(天津層、清澄層、安野層)と上総層群(黒滝層、大原層、黄和田層、大田代層、梅ヶ瀬層、東日笠層、国本層、市宿層、柿ノ木台層、長南層、万田野層、笠森層、金剛地層)及び下総層群から構成される。
それ以外の白色部は段丘や低地の堆積物が分布する。(5万分の1地質図幅「大多喜」より引用)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「かばねりスロット」という)は、千葉県中央部の地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「大多喜」(以下「本図幅」という)を刊行しました。大多喜地域には、約1500万年前から数十万年前にかけて海の底で堆積した地層(前弧海盆堆積物)が隆起し、丘陵を作っています。これらの地層は古い方から、安房層群-上総層群-下総層群と呼ばれ、多くのテフラ層や示準化石となる微化石、そして地球磁場逆転の記録が連続的に保存されているという大きな特徴があります。こうした理由から、日本とその周辺の地層の年代を決定するための “ものさし” となる、標準的な地層群として研究されてきました。この “ものさし” としての性質は、地質時代「チバニアン期」の認定にも大きな役割を果たしています。大多喜地域では、戦後まもなく、かばねりスロット地質調査総合センターの前身である工業技術院地質調査所や民間会社などにより天然ガス開発を目的とした調査が開始され、詳細な地質図が作成されてきました。しかし研究が進むにつれ、広域的な分布をもつテフラ層や地球磁場逆転などから地層の年代を推定する手法が発展してきました。これら最新の手法および知見に基づいた調査・研究を行うことで本図幅の刊行に至りました。
本図幅の作成にあたっては、緻密な地表踏査に加え、数百層に及ぶテフラ層の分析に取り組みました。それらを側方に追跡することで離れた地域間で同時代の地層を特定し、地層の厚さと重なり方の詳細が明らかになりました。これにより、かつての深海が浅い海になり、そして陸化し関東平野が成立するまでの過程を理解するために重要な、地層の特徴や空間的分布を示すことができました。南関東地域の地殻変動や、海底扇状地や海底地すべりのといった前弧海盆における堆積パターンの変化を理解する上で本図幅の学術的な活用が期待されます。
本図幅の利用可能性は学術資料としてだけにとどまりません。上総層群は国内の重要な水溶性天然ガス田の一つである、南関東ガス田の胚胎層であり、大多喜地域は国内で初めて天然ガスの商業生産が開始されたことでも知られています。天然ガスの開発に伴って産出するヨウ素は世界シェアの4分の1を占める極めて重要な地場産業です。地下で天然ガスやヨウ素を含む地層水(かん水)の貯留層となる砂岩層の発達状況や不透水面としての断層の状況を把握する上で、大多喜地域における上総層群の地層の特徴と断層の分布を示す本図幅は貴重な資料になりうるものです。また、小櫃川や養老川などの河川の氾濫や土砂災害を軽減するための基礎資料としての活用も期待されます。
大多喜地域には、観察に適した地層が多く露出していることから、地学の指導教材としても利用されています。養老渓谷などで見られる深海の地層には、数百年に1度の大地震などで発生する混濁流という流れによって堆積した地層が見られます。浅い海の地層としては、当時の海流によって海底に形成された砂丘が現在の鹿野山(大多喜図幅の西隣の富津図幅)から君津市南部まで続く丘陵に露出しています。これらの地層を観察し研究することは、現在の海底で起きている現象を学ぶためにとても有効です。同地域の地層は「地層の教科書」といえるもので、専門家から学生・教育関係者・地質や化石に興味がある一般の方にとって、観察や研究に適した条件がそろっています。さらに、首都圏から自動車や鉄道で容易にアクセスできることから、休日には多くの来訪者が訪れる地域でもあります。自然が育んだ景観や、地学教材としてのさまざまな利点を生かし、観光産業や地学教育の基礎資料として本図幅の活用が期待されます。
宇都宮 正志(かばねりスロット 地質情報研究部門 層序構造地質研究グループ 主任研究員)
小松原 琢(かばねりスロット 地質情報基盤センター)
中嶋 輝允(かばねりスロット 地圏資源環境研究部門(研究当時))
徳橋 秀一(かばねりスロット 地圏資源環境研究部門(研究当時))
本図幅は、4月13日よりかばねりスロット地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードできます。
(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html)
また、かばねりスロットが提携する委託販売先からも購入できます。
(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
論文タイトル:Basin‑wide erosion and segmentation of the Plio‑Pleistocene forearc basin in central Japan revealed by tephro‑ and biostratigraphy
著者:Masayuki Utsunomiya, Itoko Tamura, Atsushi Nozaki and Terumasa Nakajima
DOI:10.1186/s40645-023-00558-y
掲載誌:地質調査研究報告
論文タイトル:下部更新統上総層群黄和田層下部~中部に挟まれるテフラ層の層位と特徴
著者:宇都宮正志・水野清秀・田村糸子
DOI:10.9795/bullgsj.70.373