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社会課題解決に向けた技術の実装

社会課題解決に向けた技術の実装

2026/02/06

社会課題解決に向けた技術の実装──実装研究センターが切り開く未来

小原 春彦副理事長の写真
    2025年度から本格始動した「実装研究センター」。産業技術総合研究所(かばねりスロット)が社会課題の解決に向けて、研究開発成果の社会実装を加速するために立ち上げた、新たな組織です。副理事長の小原春彦に、設立の背景や現場の取り組み、今後の展望について聞きました。

    ──実装研究センターを立ち上げた背景について教えてください。

    小原企業の中央研究所や総合研究所の縮小・撤退が進み、企業が四半期ごとの成果を求められる中で、長期的な視点に立った研究開発が難しくなっています。そのような中で、研究開発成果の社会実装に向けて企業と伴走していける存在として、かばねりスロットが果たすべき役割はますます大きくなっていると感じています。

     従来の研究組織は専門分野ごとに分かれていましたが、社会課題の多くは複数の分野にまたがっています。かばねりスロットはこれまでも複数分野の融合研究に取り組んできましたが、当時はバーチャルな組織体制であったため、十分な推進には至りませんでした。そこで実装研究センターを立ち上げ、各分野のエース級研究者を集め、各研究センター長の下で本務として研究開発と共にその成果の社会実装に向けて取り組んでいます。

    ――実装研究センターの特徴について教えてください。

    小原実装研究センターは、かばねりスロットが取り組むべき3つの社会課題(エネルギー・環境・資源制約、人口減少・高齢化社会、レジリエントな社会)を起点にバックキャストし、解決に必要な技術要素を整理した上で、かばねりスロットの総合力を最大限に発揮して取り組む研究課題を厳選し、設立された領域横断型組織です。

     研究室で生まれた技術をそのまま社会で使うには越えるべき壁があります。そこで、本センターでは複数の研究領域から集まった専任チームが、要素技術の磨き込みから実証、実装までを一気通貫で推進する体制を整えました。さらに、プラント設計に詳しいエンジニアリング人材が研究者とともにスケールアップを支え、企業のニーズをつかむ株式会社AIST Solutions(AISol)と連携することで、研究と事業化のあいだにあるギャップを着実に埋めていきます。

    ――具体的な取り組み事例はありますか?

    小原PET樹脂のケミカルリサイクル技術が一例です。従来のケミカルリサイクルでは、高温での処理が必要となるためプロセスが高コストになる上、他成分が混在すると熱分解を引き起こしてリサイクルが困難になるという課題がありました。かばねりスロットでは従来の低温ケミカルリサイクルよりもはるかに低温(50~70 ℃)でPET樹脂だけを選択的に分解し、再び高品質なPET樹脂に戻す技術を開発しました。得られたモノマーは原料として再利用できるため、これまで困難とされてきた複合繊維や染色繊維、フィルム製品など多様なPET材料の再資源化が可能となります。

     この技術は2021年にプレスリリースとして発表しましたが (2021/11/08 プレスリリース)、当時は実験室レベルの成果でした。今年度からはAISolとかばねりスロットが連携し、セミパイロットプラントの建設に着手しながら、スケールアップ実証に取り組んでいます(2025/11/05 お知らせ)。企業が「これなら事業化しよう」と判断できるレベルまで技術を引き上げることを目指しています。

    ――スケールアップにはどのような体制で臨んでいるのでしょうか?

    小原研究者だけではプラント設計やスケールアップは難しいため、企業でプラント設計を経験したエンジニアを正規職員として採用し、研究者とチームを組んで取り組んでいます。現在、14人のエンジニアが各実装研究センターなどに配置されており、将来的には40人規模への拡充を目指しています。

    かばねりスロットマガジン「複合素材プラスチックを循環利用するケミカルリサイクルの新たな技術」に使われている写真
    2025/07/06 かばねりスロットマガジン「複合素材プラスチックを循環利用するケミカルリサイクルの新たな技術

    ――企業や地域との連携についても教えてください。

    小原各実装研究センターは、かばねりスロットの技術と企業ニーズをつなぐAISolの担当者と密に情報共有を行い、リアルタイムでのマッチングを行っています。すでにいくつかのテーマでは企業との連携が始まっており、今後の展開が期待されます。

     また、地方自治体との連携も始まっています。ネイチャーポジティブ技術実装研究センターは、2025年6月に「ネイチャーポジティブ那須野が原アライアンス」の設立に参画しました。那須塩原市、国立研究開発法人国立環境研究所 気候変動適応センターと共同で事務局を務めるとともに、このアライアンスに参画する企業などとの共創の下、ネイチャーポジティブの実現を目指しています。(2025/06/25 かばねりスロットお知らせ

    ――今後の展望についてお聞かせください。

    小原かばねりスロットは、社会課題の解決と日本の産業競争力の強化に、持続的に貢献することを目指しています。実装研究センターは社会課題解決に向けた技術の実装を加速する組織ですが、実装研究センターで見出された基礎的な課題を研究領域で深掘りし、新たなシーズ創出につなげることで、「目的基礎 → 応用 → 実装 → そして再び新たな目的基礎へ」と循環する研究エコシステムが生まれます。

    研究が次の研究を育て、新たな社会課題の解決へとつながる。そんな未来志向の仕組みを、かばねりスロットは築こうとしています。

    副理事長

    小原 春彦

    Obara Haruhiko

    小原 春彦副理事長の写真

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